フィリピン人とケンカ!





「マサ、リスペクトありますか?」

その言葉に一発でカチーンときた。許容の限度を超えている。
怒りの感情が湧いて、そしてそれが すぅっと冷静に、いや、冷徹になっていくのがわかった。

「誰が誰にリスペクトだって…?」

 


事の発端はこうだ。
私は氏の宅を訪れ、夕食の餃子を作っていた。
これは私の提案であり、また氏の希望でもあった。
もちろん餃子を作りにだけ行ったのではない。メインはウータン(借金)の回収である。前回の記事の次の訪問では500ペソの返済を受け、その次からは毎回250ペソずつ支払ってくれるようになった。
以前からも氏の住んでいる所に時々遊びに行って、日本の料理を振る舞っていたのであり、今回もそのように、集金の際には毎回違った日本の料理を作っていくことにした。

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これにはちょっとした私の思惑があった。
一つ目は単純に、顔の広い氏にコンスタントに日本の料理を提供していれば、SNSで紹介してくれ、私の新しいビジネスの種にならないか、というものだ。
二つ目は、氏から直接に注文を受けられないか、というものだ。以前もいろいろな料理を氏には作っていたが、ここに来てから作る料理はその重複を避けるようにして、もしおいしかったものをもう一度食べたいとなったときは、「え〜、有料だよ」と応じればよい。
以上の二つは、私の直接的な目論見であったが、三つ目はお金は産まないが確実で、また大切なことだ。
私の料理を食べて「おいしい!」「うまい!」 と氏が口にした数をこっそりカウントするのだ。これで、フィリピンの人に私のそれぞれの料理がどれくらい支持されているか数字で明らかにすることができる。
氏を半分騙すようでやや心苦しいが、今からサンプルを採ります、と被験者に伝えてしまっては本当の結果を得ることはできない。まぁ、多少の食材費を貰うこともあるが、生粋の日本人の手料理を格安で食べられるのだから、それこそ「おいしい話」であり、これでよしと勝手にさせてもらう。
というわけで、8月12日現在、私の手元には「24」に及ぶ提供メニューに対し、「98」の氏の「いいね!」基い、「おいしいね!」が付されたデータがある。

 

――話が大きく逸れてしまった。
氏は現在の住居の近くに、大金持ちといっていい友人を持っている。歩いて行ける距離なので、この人に 大なり小なり寄生するためにここに住んだのではないかと疑ってしまうほどだ。というか、実際に無料でいろんなものを貰っている。氏は基本的には人当たりがいいので、すっと人の懐へ入っていき、嫌がられることはない。
私も長引くコロナ禍のなか、お金などは無いよりあった方がいい。このお金持ち氏からまとまった注文でも入ればそれに越したことはないと思っていた。
氏に幾度か料理を作ってあげるのだが、その度にこの友人を呼ぶ。それはいいのだが、私の作るものは中華料理や冷やした料理が多いので、出来てすぐに食べてもらわないと、どんどん味や食感が落ちていく。それを食べてもらっても、どうも100%の質を体験してもらえないと思うのだ。お金持ち氏もフィリピン人なので、フィリピーノタイムなのである。それを毎回、今や遅しと待つわけだ。車が到着、席に着いたかと思いきや、そこからさらに、敬虔なアサーワ(配偶者)氏により、食前の信仰の時間が始まる。10分以上かけ、英語で何やら感謝だか懺悔だかの辞を もごもごと述べている。空腹であっても私はそれが終わるのを待たねばならない。

氏は、日頃お世話になっていることの均衡を取る意味も含めて、珍しい日本の料理なんかを食べてもらいたいということだろう、毎回この友達を呼び寄せるのだ。そして、万全ではない料理が彼らの口に入っていく。日本料理って言ってるけど大したことないな、なんて逆効果になることはまっぴらなので、私は氏に訳を話し、友人を招くのはもう止めにしてくれ、宅に出向いて、着席を確認し、それならそこで料理を作る、と釘を差した。

そんなことがあってからの、今回の餃子作りである。冷凍食品の餃子の皮は売られてはいるものの、食感がいまいちで、皮から手作りすることにしている。結構時間がかかるのだ。そうして、ようやく餃子が蒸し上がってライスも並べたところに、氏は「じゃあ、ジョーイさん(お金持ち氏)のトコロ行くか!」と言ったのである。この人物は、本当に他人の意思や意向を尊重するといったことがない。わがまま、セルフィッシュなのだ。
私は氏のポケットモンスターになった覚えはないので、先日の話を早口で手短に繰り返し、「私はここで食べるから」と、中学生になっている彼の息子と餃子を食べることにした。息子氏は父から簡単な日本語の挨拶程度は教わっているので、「オイシイなぁ」とか言って食べてくれた。

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氏への説明の繰り返しに加え、写真を撮っていたこともあって、この時点でフライパンの蓋を開けてから10分は経過しており、餃子の皮が乾き始めて、おいしさは既に2割減になっているように感じた。私の作った皮が不完全なのかどうか わからないが、とりあえず食べる直前まで蓋を取ってはいけない、というのを勉強したわけだ。
氏は、夫妻の来るのを待ち、一緒に食べるようだ。私のお願いは無視する形になっている。夫妻が着く頃には、そこら辺の冷凍食品かそれ以下の味になっているだろう。

 

そろそろ友人夫妻が来るということで、氏は食べ終わった私に、机の上に白く散らばる小麦粉をワイプするよう言ってきた。氏の宅にはまともな雑巾といったものがない。洗ったあと、絞ることも乾かすこともないので、ゴキブリがたかり、脂ぎって、黒ずんだボロ布なのである。私はそんな物を触るのは御免だし、余計に机が臭くなるだけだ。そうでなくとも、机の表面は凹凸がデザインされているので、拭くのではなく水で流さないと駄目なのである。最近も一度そうして掃除した。

「あなた、手、空いてないですか?」餃子を3時間かけて作っていたのは私だ。氏も仕事を何かしていたのかもしれないが、いま現在はただ友人を待っているだけだ。
「ワイプできないですか?」と氏。先程の、「手短なやりとり」で、自分の思う通りにいかなかったのが気に食わなかったようだ。

「水で流さないと駄目だから明日ね」、と返す。
「ワイプできませんか? 今ここ、ジョーイさんと食事。」
私は息を吸い込んで、ふぅっと大きく吹き、2、3ヶ所の白い粉を机上から追いやった。「あとは明日ね」

「ワイプ、難しいですか? ゲスト、今来るでしょ? お願い、聞けませんか?」
その「お願い」破っているのは、どっちだ。

私はこれ以上のことを今するつもりは毛頭なかった。

 

 

一向に動く気配のない私を見て、氏はこう言った。

「マサ、リスペクトありますか?」

え? 「リスペクト」…。

私たちの間で「リスペクト」という単語が使われたのは、これが二度目だ。
私はその「一度目」の場面をすぐに想起した。


私は氏に歩み寄り、努めてゆっくりめに言った。

「誰が誰にリスペクトだって…?」

 

 

 


 

 

 

遡ること1年近く。
氏は、当時住んでいた会館が、コロナ禍もあって、資金回りが悪くなったのか、建物全体が売りに出され、当然その隅を間借りしていた彼は、転出を余儀なくされた。

次の住居を探しているというタイミングで私がコロナ禍の中、のこのこ会いに行って、その際にその相談をされた。
私は丁度、オーナー一家のマダム氏と仲違いをして、同じ敷地に住んでいるのが嫌気が差し、そのワンルームから畑に移り住むところだったので、その私の畑の他の、大半の面積を、オーナー氏が建てた畑の小屋込みで移り住んだらどうか、と提案をした。氏は渡りに船とばかりに興味を示した。
氏は執拗に、その小屋で一緒に住もうと言ってきたが、費用を折半させて自分の住居費を少しでも安くあげよう、そして日本人に毎日のように料理を作らせてそれにありつこう、という魂胆が見え見えだったので、私は私で小屋のようなものを建てて住むから、と丁重にお断りした。

 

オーナー一家と私たち二人は関係が深い。私がこの町に移り住んで、その始めに一年ほど身を寄せていたのが浜に近い氏の宅だったのだが、その小さな貸家のオーナーというのが今回の一家なのである。

当時60歳くらいのオーナー氏は、時々マウンテンバイクに跨がり、浜の村の方まで来て、私に会えば英語で少しだが話しをしてくれた。村には「バランガイ・ガーデン」という村営の畑があって、面積も全く狭く、ほとんど何も植わっておらず看板だけのそれを、私が耕していくつかの作物を植えていると、それも時々見に寄ってくれた。

浜の宅で同居していた私たちは一度ケンカ別れをしており、その後 私は町の国道近くなど、氏の宅で払っていた家賃500ペソの何倍もするような所に住まざるを得なかった。家を探す期間も伝手も限られていたからである。それから一年近く経っただろうか、地元の小学校の前のサリサリで、マウンテンバイクのオーナー氏に偶然会い、今どこに住んでるの? と声をかけられた。家賃も訊かれたので、前は6000ペソ、今は3500ペソの所です、と返答すると、自分の敷地内で住めるところがある、家賃は要らないから来ないか、ノープロブレムだ、と願ってもない提案をしてくれた。結局奥さんに決定権があったようで、1500ペソの家賃が設定されたが、このオーナー氏はバランガイ・チーフ(村長)の従兄弟ということで、自身も以前は村議員を務め、しっかりした身元なので、心身両面、安心して暮らすことができた。引っ越しを済ませ、銀行口座の開設にも同行してもらった。

 


そうして2、3年平穏に暮らしていたのだが、オーナー氏は2020年4月、肝臓などを悪くし、コロナ禍で市の病院が混んでいたのもあったのだろうか、入院して10日足らずで帰らぬ人となってしまった。つい先日まで、建築の仕事をしていたはずで、本当に信じられなかった。
葬儀も、もっと多くの人たちに見送られるべきだったのに規制が厳しい折、孫の参加すら無い、ごく少数の親近者だけの葬送となってしまった。


というわけで、現在はマダム氏とその長女だけが家に残っているという状況だった。
この一家から、氏が小屋と畑を借りようというのである。
しかし、ひとつの大きな問題があった。
マダム氏によると、氏が浜の村の貸家を、最後の2ヶ月の家賃を未払いで出ていったのだという。締めて2000ペソ也。
それを同じ敷地に住んでいる私に、しばしばマダム氏は愚痴るのであった。
まずこの問題を解消しないと、氏のマダム氏との接見は実現しないだろう。

 

「のこのこ会いに行った」その時だったか次の時だったか忘れてしまったが、その日、氏に会って、初めにオーナー氏が先日に急逝したことを伝えた。すると、氏は「え? 2000ペソ、(オーナーに)払ったよ?」と言い出した。
折りに触れ、私は氏に、マダム氏が2000ペソ払っていないって言ってるよ、と氏に伝えていたのだが、最近までもオーナー氏に2000ペソ支払ったなんて話は氏の口から聞いていない。

 

氏は私が表情を読むことのできる唯一といっていいフィリピン人だ。怒っているときの顔、嘘をついているときの表情、困って苦笑いしているときの表情を読むことができる。

今回はその、微妙に嘘をついているときの表情である。いつ現金を手渡したのか、レシートはあるのかなど質問を続けたが、無駄なことであった。

これは、死人に口無し、自分の金のために 謂わば死者を「使って」いるわけで、さらには 氏に勝るとも劣らない私の恩人に対する冒涜であって、到底看過できるものではない。

「あなた、それ、嘘だったら 死んだ人を「使って」いることになるよ? 死んだ人に対するディスリスペクトだよ? わかる? オレ、フィリピンに来て、今 一番怒っているよ?」
と、近くにアキラ先輩氏の動画*1で聞いたばかりの英語を交え、氏に抗議した。
氏はそれでも自身の主張を翻すことはなかった。


私は知っている。あの一家の「Boss」はオーナー氏ではなくマダム氏である。オーナー氏が手にした収入は全て、一旦マダム氏に納められているのではないか。
そうした中で、氏からの集金の分だけ、オーナー氏が報告せずに自分のポケットに入れるということがどれくらいあるだろうか。

金にガメつい者同士のケンカを見るのも一興だったが、氏にあなたは知らないだろうけど、と上記のことを話してみた。
これがその通りなら、氏は嘘つきを色濃く疑われ、それは死者を冒涜したものでもあるから、今後は一切出入り禁止、いやそれ以上に発展することになりかねない。

しかし、まだ氏は自身の話を変えようとはしない。まぁいい、これだけの「スペシャルアドバイスだよ?」という話を受けて、マダム氏との面会の当日に氏がどのような話をするのか。

「よく考えといてよ」

そう言って私は氏の会館を辞した。
おもしれぇ、やってみやがれ、というわけである。


オーナー氏の死を私から聞いて、氏が「以前に支払った」と答えたのは嘘とは思えないほど、早く、そして自然だった。多くの人はそれは本当なのだろう、と思うくらいだ。
しかし、そうではない。
40年以上生きてきた彼の頭の中では、死んだらその人に関する借金がチャラにできる、というモジュールが既に存在し、そうした話を聞けば、すぐに回答の用句が生成されるのだろう。


ちなみにその何回目かの残債の話のときには、氏はこうも言っていた。
「マサ(私)は、一家の所に今住んでて、たくさんの家賃を一家はもらっている。それは自分の紹介があったから。だからいいでしょ。」
たしかに、氏が私をこの町に連れてきたのは間違いない。そしてその縁で一家の世話になって、一家もそれで利益を得られたことも。
「紹介」があったから2000ペソをオマケするのもいいだろう。でも、
「それをジャッジするのはあなたなの?」
私はそう言ったが、蛙の面に水であった。

 


 いざ、その面会の当日。氏は、一家の近くにある畑を待ち合わせ場所にし、私と一緒にマダム氏の所へ出向いた。

氏は、借金未払いを謝ることなく、他の挨拶などをして畑の大部分と小屋を借りる話に入っていった。マダム氏もそれには触れず貸し賃の話などをしていく。
最後の方で、未払いの件を氏が謝罪したようで、マダム氏がネバー・マインドと言うのが聞こえた。

そしてその「謝罪」は、一家に対し嘘ついて自身の債務を免れようとしたことを、同席している私に認めた瞬間でもあった。

本当にどうしようもない人物だ。

 

 

 


 

 

 


「マサ、リスペクトありますか?」

目がギョロっとなり、怒りつつある表情だ。


氏の発言は反語疑問文であって、リスペクトしてくださいよ、という意味である。

「リスペクト」というその言葉に、私は敏感に反応し、以前の私たちの間で「リスペクト」が使われたシーンを思い出した。

 

そう。私の見る限り、リスペクトするということからも、リスペクトされるということからも――つまり「リスペクト」という単語から最も遠い人物が今、自身にリスペクトを、と言っているのだ。

他の、これまで/これからの利害に関すること全ては、勘案しなくてもよいように思えた。


私は氏の疑問文に、疑問文で返す。

「誰が誰にリスペクトだって…?」

抑えた調子で言った。

普通に生活していては、この一行はでてこない。自分の耳にその自分の声が入り、
急にヤクザ映画でも始まったのか?とおかしなことを思った。*2

 

以前の「ディスリスペクト」と同じような単語を使ってしまったことに思い当たり、しまったと思ったのか、それともそんな遠くの話はもう頭になく、単に私の言行にたじろいだのか、80キロはあるであろう巨漢は僅かに怯んだように見えた。

私の問いに、まだリスペクトがどうのワイプがどうのと言っている。

「先生が、子供に向かってリスペクトしなさいっていうのは わかるよ? でもオレはもうオトナだよ。誰をリスペクトするか、それを決めるのはあなたなの?」
前にもほとんど同じ発話を同じ人物に向けてしたな、と思った。
続けて 
「あなたは私にリスペクトありますか? 私のお願い、聞いてくれましたか?」
と完全に反撃に転じる。
氏は、ちょっと強めに注意すれば言うことをきくと「リスペクト」の発言をしたのだろうが、とんだ逆襲にあった形だ。これ以上、話をしても分が悪いことは明らかだった。


まだ「ワイプ難しいですか」と言っているので、「ワイプすればいいんでしょ、簡単だよ。そのあとトークの続き、いいですか」と追い打ちをかける。話はこれで、小麦粉のワイプの件から、氏の「リスペクト」の件へと移るはずだ。

洗い場の方へ行き、あまり黒くない方の雑巾を持って、机の粉の辺りをざっとひと拭きする。

再び氏と対峙したそのタイミングで、友人夫妻の車が店の前に止まった。

私はレストランの隅の机に移りノートを広げたが、夫妻に同席するよう誘われ、そちらに行った。夕食は済ませたので、と書きものをして過ごした。夫妻は、私たち二人が今晩はあまり喋らないな、と思ったかどうだろうか。

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夫妻の車を二人で見送ったあと、いつものように店の前のフェンスを無言で二人で閉めた。

その後、野菜の売り場の方から戻ってきた氏が声を掛けてきた。手には、その日の店の売上げ、1500ペソが握られている。ウータンの返済だという。

「えっ、でもこれ…」と言いつつ受け取った私に、氏はケンカ以外の言葉をかけてきた。私は氏の友達だ、ということで、明確な謝罪の言葉まではなかったが、和解となった。

私も「あなたは私のインポルタントな友達だよ。この町に来たのもあなたが紹介してくれたからだし…」と鉾を収めた。

友人夫妻が来て夕食となったことで、二人の頭を少しクールダウンする間ができたことが良かったのかもしれない。これがなければ、どちらも譲らず、二度目の喧嘩別れになっていた可能性も高い。本当にジャストタイミングだった。


氏は、あまりしんみりしないよう、わざと明るく振る舞って「明日、あした」と言って2階の住居部へと消えた。

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誰もいないレストランで、渡された二枚の紙幣を見つめ、私は考えるしかなかった。

コロナ禍もあり、ほぼ自転車操業の状態になっている現在の氏の店において、売上げはそのほとんどを次回の仕入れに回さなければならないはずだ。それを私に渡すということは、もう仕入れはしない、つまり店を畳む、ということではないのか。
もうひとつ。250ペソずつ返していたウータンは、これで一気に完済である。これは、借金はもういい、料理もいいから、今後はもう来ないでくれ。そういうことではないのか。

翌朝に真意を訊いて、1000ペソは後でもいい、としてみるかと決め、いつも寝ている壁向かいになっている席の日中に積もった粉塵をペーパーナプキンで拭いて、横になった。

しばらく考え事をしていたが、何だか私にとって事が上手く運びすぎる。
嫌なことに気がついた。彼は町役場の他、警察方面にも顔が広い。今晩にでも、翌朝にでも、警官の知り合いに電話をして、店の売上金が1500ペソ足りない、と通報すればどうなるか。パトカーが急行した時点で、その同額が私の財布に収まっていたら…。

私に言い負かされつつあった氏が、本当にすんなりこのまま事を収めるだろうか?


ここはフィリピン。修羅の国である。

万が一、いや30%くらいで起こりそうなこの線を消しておくために、私はもらった紙幣を、席の下の、造り付けの悪い隙間の所に隠しておくことにした。翌日の、帰る間際に回収すればいいだろう。これで安心して眠ることができる。万全だ。

 

眠りに落ちるまで、また今日の一連を思い返していた。

それにしても氏は気付いているのだろうか。
私が「インポルタントな友達だよ」としても、「リスペクトできる友達だよ」と最後までしなかったことを。


なんのことはない、氏が私を利用しているのと同じ程度に、私も氏を利用しているのである。







今週のお題「自由研究」 ――フィリピン人とそのキャラクターについて

*1:ATMの操作ができなかった支店長氏から、態度をDisrespectだ、と詰め寄られたクダリ。今は動画が見当たらず

*2:氏からは時折ふざけて、人に私を紹介するときに、ジャパニーズ・ヤクザのマサさんです、なんてやっているけど、冗談じゃない、フニャンとした顔の品行方正な(?)日本人である