フィリピンの特別退職者居住ビザ、SRRVの現在【3月最新版】

今週のお題「〇〇からの卒業」

日本からの卒業、というわけではないが、私はこの先、一生もう日本に帰らないような気もしてきた。

東南アジアなどで暮らす(困窮)邦人を題材として扱うノンフィクションや書籍やネットコラムの中で時折、「日本を捨てたのだ」とか、いや、「日本に捨てられたのだ」とかというところに焦点が当たることがある。
私は、それはどちらか一方の択一的なものではないと思う。ただ「日本とマッチしなかった」というものが横たわっているだけのように思うのだ。ここでの「日本」という語句は、「日本というシステム一式」とか「日本という文化装置」とかといったものになってくると思う。この辺りはまた稿を改めて書くこともあるだろうか。

フィリピンに来て5年経つ。フィリピンに来て、本当に良かったと思う。少し緩めの行動様式が、失くし物の名人・遅刻の常習犯だった私には合っているのだろう。時々、もし日本に居たら今頃どうしているのだろうか、なんてことを夢想することもあるけれど、どのようにあれ、今の生活に勝るものになっているとは思えない。 

f:id:taippii:20210306191332j:plain

↑    最近の、ドライカレーの販売と、
                 友人宅での冷やしうどん作りの様子    ↓

f:id:taippii:20210311100013j:plain

f:id:taippii:20210311104341j:plain

とてもフィリピンの食べ物とは思えないくらいおいしかった
(いや、日本の食べ物か…)

f:id:taippii:20210311104535j:plain


飽きの来させない大小の事件も起こり、毎日が新鮮である。 目下、「アイデンティティ」を揺るがす事態の渦中に居るわけだが――。

 





昨年10月に、大量の若い中国人がSRRV(特別退職者居住ビザ)を取得してフィリピン国内に入ってきており(SRRV保持者の約⅓が中国人)国家の安全保障上問題がある、とPRA(フィリピン退職者庁)は指摘され、現在のポリシー、つまり年齢や預託金といった要件を見直すよう勧告を受けた。ポリシーが定まるまでSRRVの新規申請は一時休止となったようで、現在もそれは続いている(これに関するニュースはこちらから)。
新たな若い中国人の流入はひとまずこれで防げるわけだが、既存のSRRVホルダーの処遇に関しては、監視プログラムの策定を、と提言があったのを受けてか、11月初めに、現住所・連絡先・この国に来た目的などを訊ねるEメールが全SRRVホルダーに届いたのだが、その他に具体的な「監視」の動きはみられない。
以前の記事の中でも、この「監視」をどのようにするか、そのコストも含めてかなり難しい舵取りを求められるのでは、と書き綴ったわけだが、注意を要する外国人の「監視」よりも、それを「排除」する方が長期的に見て手間もコストもかからないし、国家安全保障といったことを目的とするならば、より「確実性が高い」。

要注意外国人の排除に向けてのシナリオは2つある。その一部は既に現実のものとなりつつあるので「筋書き」ではなく「筋道」か。
ひとつは今年2月からの、入国の際はフィリピンの所轄の政府機関から入国許可証を貰っておく必要があるという発令だ。これはSRRVに限った措置ではなく、コロナのため多岐にわたるビザについても同様なのだが、SRRVについてはまずPRAか観光省から推薦を受けて、というのがさらに付加されている。現在の状況の下、「若い」「中国人」をどうぞどうぞと言って自由に通過させるとはとても思えない。さりとて正規の、しかも高額な預託金の要る特別ビザを持った者を、門前払いするわけにもいかない。きっと「推薦の申請が殺到していて手続きに時間が…」なーんて言って、諦めるまで待たせるのだろう。SRRVのIDカードの更新やビザのキャンセルも半年以上放ったらかしにしているので、これくらいは何でもない。これでSRRVホルダーを狙い撃ちにして、フィリピンから出るのは簡単だが、再入国はちょっと…、という状況を実現することができる。

もうひとつのシナリオの方は、より根源的だ。
ID更新やキャンセルの問い合わせを含むメールの返信が滞りがちだというのは昨年の春〜夏からの話で、もしそのとおりだとすると、この夏に、期限切れのIDカードを持った(追い出したい)SRRVホルダーが全て*1「出揃う」ことになる。

ある朝早く、玄関のドアがノックされ、出てみると数人の武装警官。
「不法滞在の疑いがあるとの情報が寄せられている。ちょっとIDを見せてもらえるか」
当然 期限切れのものしか提示できない。かくかくしかじか、こういった理由で と事情を説明するも 抗弁虚しく、
「言い訳は署の方で聞く」
として拘束・連行――。
なんならオプションで、家主の居なくなったその部屋を家宅捜索して「きれいに印刷された」給与明細を押収、不法就労で検挙することもできる。でっち上げは それこそフィリピン警察の十八番なのでそのくらいは容易いことだ。

 

いずれの方法も、本来ならばいつかの時点でビザのキャンセル、つまり預託金の返還が必要である。
PRAはコロナ禍の発生を予見しては いなかったはずで、すなわち欧米人の大量のキャンセルは想定されておらず、DBP(フィリピン開発銀行)のPRAの口座内の巨額の外資は、どこかへ長期的に投資しているのでは、と私は考える*2
返還準備金不足のPRA(※個人の見解です)と中国人を追い出したい政治家の利害がここで完全に一致するのだ。PRAのすることといえば全SRRVホルダーの名簿から、「該当する者」を抽出して政府を通じてフィリピン警察に送るだけだ。
前述の「オプション」の方をチョイスして、犯罪者に返す金なんて ねぇよ、とすれば 送還費用を差し引いて、預託金がほぼまるまる残ることになる(フィリピン警察から人件費分の請求書が届くかもしれないけどね)。
まぁ 預託金を丸儲け、というのは話を膨らませ過ぎかもしれないが、払い戻しの期日を大幅に遅らせることができるのは確実だ。

今回の一件でいちばん割りを食っているのは、純然に保養と観光を目的としたり、不動産を所有して投資したりしている、フィリピンと自国とを行き来している欧米人のSRRVホルダー達だ。自由な往来を保証するSRRVのメリットが失われ(自宅が破壊・略奪に遭っているのにフィリピンに入国できないという人さえ居るようだ)、さっさとビザをキャンセルして預託金を返還してもらいたいところだが、そうしたキャンセルのメールにも何の音沙汰もないので、PRAのfbのコメント欄は阿鼻叫喚・地獄絵図のようだ。一部の人は怒りを通り越して、皮肉や諦観の色を見せている…。「特別審査付き観光ビザ」だとか(類縁のビザのSIRV(特別投資家居住ビザ)は入国許可書の前の推薦は不要で、必要とされているのはSRRVと一番格下の観光ビザだけ)、PRAは観光省の操り人形だとか、政治家の票集め(嫌中国)アピールのためにSRRVが標的になっているとか…。

 


今回いろいろ書き連ねてきたが、こうしたことも対岸の火事ではない。私も「若年者」の部類に入っているわけで、機関の匙加減ひとつで排除の対象となりうる。

万一、当ブログの更新が途絶えたときには、「あぁかわいそうに、とうとう当局に拘束されたのか」と思って頂いて構わない。

 

 

*1:通常は一年更新、三年期限のものの申請可

*2:fb内でマーケッター(※ビザ申請代理店)に頼んでみたら返却されるよ とあったのは、マーケッターの方が一個人より発言力が強いために優先的に返金されているのではないか