フィリピンの特別退職者居住ビザ、SRRVの現在

さぁ、大変なことになった。いや進行形だから「なっている」、か。
私のフィリピンでのビザの種類はロングステイビザのひとつ、特別退職者居住ビザ(SRRV:Special Retiree Residence Visa)というやつなのだが、これを発行しているフィリピン退職者庁(PRA:Philippines Retirement Authority;観光省の傘下)というところが11月に入ってからこちら、その機能を全て停止している。表向きのアナウンスは、SRRVの新規発行をしばらくのあいだ中止します、ということで これだけ見ると、あぁコロナのせいかなとも思うが、ビザの更新(基本的には一年ごと)やビザのキャンセル(預け金の2万〜5万ドルは手元に返還される)といった業務も一切受け付けていないのだ。
コロナ禍で職員の多くがテレワークになっているとしてもこうした業務ができない理由にはならず、なによりそのテレワークの根幹と思えるEメールのやりとりに全く何のレスポンスもないわけで、ビザ保有者から見ると、「すべての業務を停止している」としか映らないのである(PRA事務所への直接訪問もメールでの事前予約が必要となっている)。現にFacebookのPRAのページには、当ビザ保有の多くの外国人が「更新をしたいがメールに一ヶ月返信がない」「コロナでフィリピンへの入国ができないためビザをキャンセルしたいが二ヶ月返信がない」といった問い合わせの類いのコメントが150件以上寄せられ活況を呈している(もちろんそれらに対するPRAのコメントは一切無い)。

実は、こうした業務の混乱は、既にフィリピン関連のニュースサイトなどで報じられているように、10月に開かれた予算公聴会で、当ビザで若い中国人が大量に(約2.8万人、発行全数7万人の ⅓ 以上)国内に入ってきており、国の安全保障のうえで問題がある、と上院議員に槍玉に挙げられたのが引き金となっている。オンラインカジノでの不法就労の件も)

この指摘を受けて、PRAの上部組織の観光省の方から年齢要件の35歳というのを見直せとのお達しがあった。
しかしこれでもまだ、PRAがすべての業務を停止するという理由にはならない。はい わかりました、50歳に引き上げますとすれば済むからだ。


政府の一機関の中でいったい何が起こっているのか。
私もこの10月で更新を迎え、9月中に更新料の入金方法を尋ねるメールを送ったのだが「計算にあなたのIDカードとパスポートが必要です。スキャンしたものを送ってください」という(必要性のよくわからない)返事を最後に途絶えている。Facebookを覗いてみたところ、上記のような状態で、私だけがこうした状況にあるわけではないようなので、催促のメールを出すことはそれ以降 辞めにした。
投稿の中には期限の切れた「SRRVのIDカード」は無効だが、パスポートの「SRRVスタンプ」は有効らしい、といったものもあったが、それだってPRAの公式見解ではない。
そうした事があってからもう2ヶ月近く。SRRV保有の邦人は4000人居るということから、計算上は既に400人くらいの日本人が、半死半生の期限切れ『特別退職者居住ビザ』を持って、生ける屍のごとくフィリピン国内をうろついていることになる。

Facebookを眺めていても「今日も業務を再開していない」ということ以外に情報が増えないので、100件目くらいまでコメントをトレースしていたが、それもやめてしまった。
フィリピンのニュースサイトで取り上げられることも少なくなってきたので、一次情報に当たってみるかと今回、「PRA・News」でググってみた。そこで新しくわかったことを挙げると、
・(私が思っていたより)PRAは強めに怒られたらしい
・実効性のある監視プログラムを作らないと「来年の予算が下りない」
・中国人の入国に関して、PRA内に賄賂など汚職がないか上院の調査が近日中に入る(?)
・(おまけ)韓国における将校の引退年齢が35歳だったため、それに合わせて1993年に引き下げられた(なんだそれ)

 

物の本に拠るとPRAは税金ではなく申請料と更新料で喰っているから職員は割りかし勤勉だ、とあったように思うが、予算も付いているらしい。

 


 

     ↓ おかんむりの上院議員

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       ↓ PRAに年齢見直しなどの指示を出した観光省のTop

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なるほど、若い中国人への懸念は本物らしく、今から年齢を引き上げるだけでは不十分で、既に発行している2.8万人の中国人の処遇をどうするかという点が残る。まさか中国を指定国として、その国籍の者を一括してビザ剥奪するというわけにもいかず(フィリピンなのでそうした強権的なこともあるかもしれないが)、妥当なところとしては、公聴会でも話のあった「監視プログラム」の策定ということになるのだろうが、これにしたって「日々の行動の監視」であって、婚姻ビザのように年一回のAnnual Report(何て発音するのこれ?)を、というわけにもいくまい。毎週かせめて毎月のレポートを提出させて、その2.8万人だか7万人だかの分量を職員が査読に当たる、ということになる。考えただけでも気が遠くなるが、作業もさることながら その人件費が追加で発生する、ということである。
しかし、ザルの目をどれだけ細かくしてもザルはザル、所詮は自己申告なのだから、そんなのは「監視プログラムとは認めない、と上部組織から突き返されることも十分ありうる。それなら、探偵業者を数百人規模で雇うか?  まさかね。

難題ではあるが これをクリアしないと予算が下りない、これは公機関としてはかなりの痛手ではないだろうか。組織としての方針が決まらないのに、日常業務なんかやってられるか、ということなのだろうか?
ちなみに 最近に期日を絞って検索してみたが、これだった進展は無いようだった。

 

私がひとつの可能性として考えているのは、コロナ禍でビザのキャンセルが相次ぎ、PRAの口座内で預かっている金の準備が追いつかなくなっているのでは?ということだ。汚職のある国なので預託金に手を付けた(コロナがなかったなら急激な払い戻しは発生しないため露見はしない。また、ビザ保有者が死去しても家族が返還請求(多大な時間と経費がかかるそうだ)をしなければ)返還しなくてもよい)か、もしくはそこまで酷くなくとも口座で大きな金額を遊ばせておくよりどこかに長期投資をした方が、として現在一時的に口座のお金が枯渇しつつある、というケースである。ビザのキャンセルだけ受け付けないというのはおかしいので、更新などの業務も含めて、投資先から引き揚げの話がつくまでのあいだ、休業を決め込んでいるとすれば現在の状況に一応説明がつく。これはひょっとすると、ちょっとした”取り付け騒ぎ”になるかもしれない(既になっている?)。

 

 

さて、このSRRV。5万ドルが返還されない”死神アイテム”となるか、空前絶後の発行となった世界トップの若年退職者プレミアムビザという”神アイテム”になるか。

というわけで、今週のお題#買って良かった2020 」。
申請料18万円、フィリピン国内への預金500万円、年次更新料4万円の「フィリピン特別退職者居住ビザ」、コロナ禍明けの際にはぜひ皆さまもお買い上げを検討ください(PRAが存続していれば)

 

 

 

 

 


  次回は「さぁ大変、手持ちの現金が少なくなってきた、コロナ禍のなか、日本にお金を取りに行って無事フィリピンに戻れるのか」をお送りします